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FD研修

H.Lee Moffitt Cancer Centerにおける研修報告

研修期間2008年11月3日~11月7日
報告者川崎医科大学 出口 美穂(看護師)、水川 真理子(看護師)

中国・四国広域がんプロフェッショナル養成コンソーシアムのFDプログラムとして平成20年11月3日から7日の5日間アメリカ合衆国フロリダ州タンパにあるH. Lee Moffitt Cancer Centerを看護師2名で訪れた。がん看護と緩和ケアの実際を学び、当院の緩和ケアチームの在り方の検討及び院内がん看護教育プログラム作成を目的とした。

1日目

午前中はIVSP担当コーディネーターNzuziさんより施設紹介及びオリエンテーションを受けた。研修期間中に得た患者のプライバシー等の情報の守秘義務やその他の規則を遵守することを誓う書類にサインをした。また患者のプライバシーと安全に関するハンドブックを自己学習し、25の問題を解いて提出した。研修中患者に接することがあるため、ツベルクリン反応試験を受けた。

午後よりPain & Palliative Care Clinic のNurse Practitioner(NP)のRosarie e-Radyさんの外来で4人の外来患者の診察を見学した。サルコーマ2例と卵巣がん、左側腹部痛が主訴の患者の症例であった。疼痛を中心に診察を行っているが、患者の背景、ADLの把握と全身のアセスメントも同時に行っていた。また、カウンセリング技術をもち合わせ、患者との信頼関係を築く努力をしていた。診察の結果、鎮痛剤を処方し、必要に応じて麻酔科医による神経ブロック療法、精神科医、ソーシャルワーカーへの紹介も行っていた。NPは医師から患者を紹介されるが、アルコールやドラッグ中毒患者など困難なケースを任されることも多いという話であった。患者の疼痛を評価するために、診察毎に4ページにわたる独自の疼痛アセスメント表を用いていた。この疼痛アセスメントツールを参考に当院での導入を考えている。またNPの医師と同等レベルの診察技術や、看護の視点を活かして患者を全人的にとらえ必要なケアを行っている点から我々も看護師として知識、技術能力、プロとしての姿勢、接遇態度とあらゆる面での向上が必須だと刺激を受けた。

2日目

RNのCarolynについてSenior Adult Clinicの説明を受け、外来の医師の診察を見学した。対象は65歳以上のがん患者で、外来のメンバーは3人の医師、4人のRN、栄養士とソーシャルワーカーによって構成されている。対象が高齢者ということで、専用のアセスメント表を活用していた。介護者、QOL、ADL、栄養から認知能力を盛り込んだものとなっていて点数で評価ができる。その評価により、栄養士、精神科医、ソーシャルワーカーの介入を行っている。セカンドオピニオンとして来る患者も多く、フロリダ州全体、また外国人の患者もいるとのことだ。患者のステージによってどのホスピスがいいかなどの検討はソーシャルワーカーが中心になってすすめていく。

2例の患者の診察を見学した。1例目ではステージ4の肺がん患者がセカンドオピニオンとして家族とともに訪れており、医師からの告知の場面を見学することができた。言語だけではなく非言語的コミュニケーション技術を用いての告知は、文化的な背景はあるが、参考になるものであった。アメリカではがん患者の77%は55歳以上であり、高齢のがん患者には小児や成人のがん患者の抱える問題とは別に、高齢であるがゆえの共通の問題(介護者の問題、QOL、ADL、認知能力など)を抱えていることを学んだ。高齢患者には寿命、治療による合併症とQOLのバランスを考慮して治療計画をたてなくてはならない。高齢がん患者クリニックなどの専門外来をもつことが望ましいが、その前には的確なケアを提供していけるがんプロフェッショナルの人材育成が必要と感じた。現状内でできることとして、院内で高齢がん患者独特のケアや日本の高齢がん患者に特有なニーズをアセスメントすることが必要だと啓蒙したい。

Bone Marrow Transplantation (BMT) ClinicではRN,CNSのChristine Siderakisより外来案内を受けた後、診察、処置室においてRNの仕事を見学した。主に、移植後に通院中の患者に採血、輸液、輸血などを実施していた。また、昼食をとりながら、薬剤師による「ステロイド無効のGVHD患者の治療」についての講演を聴講した。

その後看護部Dr.Boyingtonによる教育システム、年間の教育計画及び臨床における看護研究への取り組みの詳細を聞いた。当院では現在がん看護教育プログラムをもっておらずがん看護が標準化されていないので、Moffittのプログラムを参考に院内のがん看護教育プログラム作成をはじめたいと思っている。

3日目

Hematology Clinic ではRN Barbaraにより外来でのRNの仕事内容と患者教育パンフレットの説明を受けて、見学を行った。その後Nzuziさんによる施設内の他職種の取り組みについての講義を受けた。ライフワークバランス、福利厚生、チームアワード、ボランティア、職員のプロジェクトチームによるリサーチなどの説明を受けた。

午後より、Dr. Bugaによる入院患者の疼痛マネージメント回診に参加した。疼痛マネージメントチームは疼痛マネージメント専門医師、薬剤師と研修医、学生から成り、メンバーが1日に最低2回対象患者を診察して鎮痛剤の評価、コントロールを行っていた。また、病棟内では音楽療法、アートセラピー、病院玄関フロアではボランティアによるドッグセラピーが行われていたので見学した。また、代替医療も含む統合医療の説明を受けた。回診を通じて、当院の緩和ケアチームの在り方のヒントを得、今後はベッドサイドラウンドを取り入れること、Pain & Palliative Care Clinicで学んだ患者の疼痛アセスメントツール等も用いて、毎日変化する患者のニーズに合ったケアを検討できる緩和ケアチーム活動にしていく必要がある。

4~5日目

OCN Reviewコースの聴講を行った。講義の中で印象的だったSexualityの講義では性差による病因の研究がすすんでおり、今後の患者教育の1つとしてがん予防に関する重要な知識となるだろう。Survivorshipでは、これまでのサバイバーの定義はがん克服から5年以上経過した患者であったが、現在ではAmerican Cancer SocietyがSurvivorshipの対象者をがんと診断された患者、治療中の患者、またがんを克服した人を含めている。そしてさらにその家族、友人など患者と関係のある人間も盛り込んでいる。アメリカではがんと診断された人のうち14%は20年前に診断を受けている。がんの克服後5年を過ぎても再発の恐れや長期的な合併症に悩んでいる患者は多くいる。Moffittでは対象患者やその家族に対する検査、診察、精神的不安などのケアを含めたサポートを行うためSurvivorship Clinicを試験的に運用しており、今後本格的にオープンする予定であると伺った。日本でも5年以上の生存者はアメリカ同様存在しているので、Survivorshipに関するサービスが必要となってくるだろう。

まとめ

H. Lee Moffitt Cancer Centerでは、Senior Adult ClinicやSurvivorship Clinic、またIntegrative Clinicといった全米でもまだ新しいと位置づけられる分野や領域の専門的部門が設けられており、高齢がん患者やがん生存者のニーズに応え、代替医療などの選択肢を設けた統合医療サービスが行われており、がん患者に提供できるサービスの幅には限りがないと感銘を受けた。このようながん医療における新しい分野の開拓や、専門職能の厚さは日本でも見習うべき点である。

そして今回の研修の大きな目的は、院内の緩和ケアチームの在り方を検討することであったが、Moffittの入院患者の在院日数は6.2日ということから分かるように、治療は主に外来でなされ、終末期はホスピスへの転院が一般的であった。このため入院患者への緩和ケアの実際をみることはできなかった。しかし院内で行われている様々な統合医療を視野に入れた緩和ケアの実際を目のあたりにし、当院に積極的に取り入れたいと動機づけられた。

最後に本研修に参加する機会を与えていただいた中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムの皆様をはじめプログラムの企画、運営に携わっていただいた方々、研修を受け入れてくださった研修スタッフの皆様に心より感謝いたします。

川崎医科大学附属病院 看護師 出口美穂・水川真理子

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