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FD研修

Christiana Care Fellowship 医学物理研修報告

研修期間2008年3月24日~29日
参加メンバー岡山大学 宇野 弘文(診療放射線技師)、笈田 将皇(医学物理士)、武本 充広(医師)
高知大学 刈谷 真爾(医師)、横田 典和(診療放射線技師)
徳島大学 富永 正英(診療放射線技師)、西原 貞光(診療放射線技師)
報告者岡山大学 笈田 将皇

中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムのFDプログラムとして、平成20年3月24日~29日(研修期間3日間,総計24時間)に渡って、アメリカ合衆国デラウェア州ニューアーク郊外のChristiana Care Health System,Helen F Graham Cancer Centerにおける医学物理(放射線治療)の研修を行って来たので報告する。

24日(月) 成田国際空港に集合

徳島大学2名、高知大学2名、岡山大学3名の計7名は、朝一番の便にて各地の地方空港から羽田空港へ行き、そこから成田国際空港まで移動して現地集合した。事前に顔合わせをしていなかったため、出発直前まで全員揃うかどうか一抹の不安を抱えながらの旅路であった。当初UCSF大学へ行く予定だったが1ヶ月前に突然キャンセルとなった。現地スタッフとの調整、航空券の手配、事務手続きなど大慌てで準備を始めたことも災いし、行く前から準備不足が露呈してしまった。それでも無事に成田にて全員の顔合わせが終わり、一行はアメリカへ向かって飛び立った。

シカゴ(オヘア)国際空港にて入国手続きを済ませ、フィラデルフィアへ乗り換えた。外はまるで北海道かの如く雪景色である。シカゴからフィラデルフィアまでおよそ2時間の空旅、さらなる長旅が続いた。

フィラデルフィアへ無事に到着し、ゲートを出たところで現地案内人と接触。参加メンバー全員で大型車両に乗り込み、Christiana Care近くの宿泊先まで移動した。自宅を出発してからここまでの所要時間は丸1日であった。落ち着いたところで現地コーディネータのHansen Chen医学物理士にコンタクトを取る。30分後にホテルまで来てくれるとの突然の一報を受け、到着して早々に歓迎を受けた。幸先の良い予感があった。

25日(火) オリエンテーション・研修(第1日)

宿泊先から研修先のHelen F Graham Cancer Centerまで1マイル強の距離があるらしくHansen Chen医学物理士の配慮で、事務員のLisaさんに毎回我々の送迎をお願いして頂いた。

病院正面玄関に到着したところで思わず息を呑む。放射線治療の専門病院としては日本では考えられないサイズである。周辺には救急専門病院、本院を含む関連施設がずらりと並んでそびえている。来年には同じ敷地内に建屋を増築して大幅に拡張される予定であり、広大な面積が工事中となっていた。中に入ってカンファレンス室へ移動した。研修プログラムについて概要説明をして頂き,Patrick Grusenmeyer副病院長から御挨拶を頂戴した。病院の説明についてChief TherapistのLauraさんから紹介があった。概略を述べると、このNewark周辺の地区はNew Castle郡に属し、人口は50万人弱であるとのこと。Christiana Careともう一つの中核病院の2病院により主にがん治療が行われている。Christiana Careは病床数1100床、患者数は増加傾向にあり昨年度時点で18万人/年とされる。本研修では本院を訪れていないので詳細は不明であった。放射線治療を受ける患者数も増加傾向にあり、Satellite施設を含む4施設で1日120名程度の照射を行っている。放射線治療に関わるスタッフ数については、放射線腫瘍医(Oncologist)7名、医学物理士(Physicist)6名、線量測定・治療計画技師(Dosimetrist)7名、照射技師(Therapist)19名、放射線治療専門看護師9名である。 病院内を見学する。1Fには患者ロビー(ピアノがあった)、受け付け、図書館、放射線治療室があり、玄関には食べ物等を販売するスペースがある。一番奥の区画にスタッフのための部屋が設置されていた。患者は混雑することはなく,大部分が予約制であった。

続いて、各担当の先生からの講義が始まる。この日は最先端の放射線治療であるIGRT(Image-guided Radiotherapy:画像誘導放射線治療)のIntroduction(Jon Strasser医師)に始まり、医学物理(Larry Simpson医学物理士)、頭頸部腫瘍、肺がんに対する臨床応用(Christopher Koprowski医師)に関する講義を受け、また実際の放射線治療の様子を一通り見学することができた。初日のスケジュールを無事に消化した後,お土産等の買い物は今日しか時間的余裕がないということで、急遽、近くのChristiana Mallへ出かけることになった。

26日(水) 研修(第2日)

この日は講義と実習が中心となり、途中でサテライト施設へも移動したため、忙しい1日であった。

午前中はMVisionの操作概要説明ならびに現場での見学実習を行った。MVisionは放射線治療装置から発生する治療ビームを利用してCT撮影ができる最新の技術であり、治療前に毎回実施することによって正確な位置決めが可能である。この技術を利用することで、病巣に対してピンポイントで正確に照射することができ、治療計画最適化を経て副作用に対する患者負担の軽減に寄与すると言われる。

実習の場面では,実際の患者治療においてMVisionを利用している様子を見学し、 適時どのようなプロセスを経て位置合わせをしているか現場の照射技師(Therapist)の方から説明を頂いた。もちろん強度変調放射線治療(IMRT)は通常の治療と同じようにルーチンで行われており,ここでは現在の治療装置より1世代前の装置を用いて2002年頃からIMRTを開始しているとのことであった。
 昼食を経て、午後はCT-On-Rail(CT同室リニアック)の実践を学ぶために、North Wilmington Centerへ移動した。この治療施設はWilmingtonの市街地北部に位置し、Helen F Graham Cancer Centerから車で30分程度を要した。ここにはCT-On-Railの治療装置が1台のみ稼働しており、CTは旧式のタイプであるため、IGRTの際にはMVisionの利用に比べ若干時間を要するとのことであった。

実習では、CT-On-Railを利用した前立腺がんに対する放射線治療の手順を見学することができた。
患者の前立腺には金属マーカー(シードと呼ばれる)があらかじめ2~3個挿入されており、治療前に治療室内のCTで撮影された画像からマーカーの位置座標を解析し、正確な位置決めを行っていた。ここのサテライト施設には医学物理士は常時おらず、線量測定・治療計画技師が日常管理を任されているとのことであった。

その後,再びHelen F Graham Cancer Centerに戻り、MVisionのデモンストレーションを行った。講義室に実際にコンピュータを用意して頂き、我々も操作方法を体験することができた。これは非常に有意義な講義であった。
 この日は講義が終了したあと宿泊先に一旦戻り、Wilmington市内のレストランへ移動した。そこでHelen F Graham Cancer Centerの放射線治療スタッフによるレセプションが開催された。お世話して頂いたHansen Chen医学物理士をはじめとして、関係スタッフとアメリカの事情や日本の事情についてよく話し、お互いに交流を深めることができた。この日はあっという間に時間が過ぎ、関係スタッフの皆様には夜遅くまで本当にお世話になった。

27日(木) 研修(第3日)

いよいよ研修最終日となった。高知の参加メンバーは翌日の出発時刻が早く、宿泊先を変えるため荷物を持っての移動であった。

午前中の講義ではIMRTの治療計画についてKelly Andreou線量測定技師から講義を受けた。主にIMRTの治療計画プロトコルおよび治療計画技術について講義がなされた。Target(腫瘍)の輪郭定義および3次元放射線治療計画装置(Pinnacle3)の実際の運用パラメータおよび操作法について、デモンストレーション用のコンピュータを使って細かな説明がなされた。講義の中で示された疾患は、前立腺がん、頭頸部腫瘍(中咽頭がん)であった。IMRTが広く普及しているアメリカにおいても、未だにIMRTの治療計画技術は非常に労力を要する様子であり、細かなテクニックが必要であることを学んだ。実際には治療計画から治療開始まで様々な手順を経る必要があり2週間を要するとのことであった。

昼食を経て、午後からはMVisionの臨床応用の続きとして、前立腺がんの治療をトピックにChristopher Koprowski医師から講義を受けた。ここでは、前立腺がんのIGRTにおけるセットアップエラー(位置決めの精度)の軽減方法に関する話題ならびに前立腺の移動や変形による影響を学んだ。
 その後、総括のセッションとしてHansen Chen医学物理士からQ&Aという形式で議論の場を用意して頂き、参加メンバーから前立腺に挿入する金属マーカーの話や計算手法に関して活発な議論が行われた。また、日本とアメリカの医療職の違いについて、説明して頂いた。アメリカでは放射線治療の実務に携わるスタッフとして放射線腫瘍医(Oncologist)、放射線治療専門看護師(Registered Nurse)の他、日本と大きく異なるのは放射線治療に携わる技師の業務が照射技師(Therapist)、線量測定・治療計画技師(Dosimetrist)、医学物理士(Physicist)の3職種に細分化され、スタッフの数が充実していることであった。

最後にAbhirup Sarkar医学物理士からIMRTの品質管理の手順に関する講義を受けた。続いて講義の内容と同じ手順で治療装置を使った実際の品質管理の様子を見学させて頂いた。日本の状況との違いに驚きと戸惑いの連続であった。

28日(金) 帰国

前日までの研修の疲れがピークに達する中、徳島、岡山のメンバーは早朝6:00にチェックアウトし、フィラデルフィア空港へ向かった。シカゴ(オヘア)国際空港で高知メンバーと合流し、無事に帰国の途に就いた。

まとめ

本研修を通じて、日本の放射線治療に携わる診療放射線技師はアメリカの放射線治療に携わる照射技師(Therapist)、線量測定・治療計画技師(Dosimetrist)、医学物理士(Physicist)の3職種が行う臨床業務を一手に引き受けていることを実感した。日本では医学物理を専門とする技師はおろか、放射線治療を専門とする技師の数も海外に比べて圧倒的に少ない状況にある。臨床現場のマンパワー不足解消に向けて中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムを通じて、高度教育の体系化を図ることは非常に重要であると考える。今後、本研修に参加したメンバーを中心にして、こうした問題の解決を目指して積極的に活動して行きたい。 この度はHelen F Graham Cancer Centerのスタッフをはじめ、事務の皆様、参加メンバー皆様のご尽力があって、このような研修が短期間のうちに実現しました。心より御礼申し上げます。

岡山大学大学院保健学研究科 笈田将皇

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