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FD研修

Samsung Comprehensive Cancer Center研修報告

研修期間2008年11月18日~20日
参加メンバー岡山大学 香川 芳徳(診療放射線技師)、黒田 昌宏(医師)
高知大学 植 博信(医師)、佐々木 俊一(診療放射線技師)
徳島大学 生島 仁史(医師)、岸 太郎(診療放射線技師)
報告者徳島大学 生島 仁史

研修施設概要

ソウルには韓国医療施設のBig4と称される4つの大きな医療施設がある。国立のソウル大学付属病院、キリスト教系施設の私立ヨンセイ大学付属病院、そして共に巨大企業の潤沢な資金提供を受けるアサン医療センターとサムソン医療センター(Samsung Medical Center: SMC)である。1994年に開設されたSMCはあらゆる病態に対応した医療を提供するため癌センター、心臓血管センター・脳卒中センター・臓器移植センター・アレルギーセンター・レーザー治療センターを要として100以上の特殊クリニックが設置されており、1278の病床と900人以上の医師、約1200人の看護師など4700人のスタッフが勤務する韓国を代表する巨大3次医療機関であり一日の外来患者数は約5500人に昇る。1997年には医療人育成のためにSumg Kyun Kwan Medical Schoolを設立、また臨床試験インフラの構築やSamsungグループのバックアップによるマルチメディア環境の構築にも力を注ぎ、Vision 2010をキャッチフレーズとして2010年までに世界をリードする医療センターへ発展しようとしている。

Samsung Comprehensive Cancer Center (SCCC)は、韓国において増加の一途をたどっている癌に対するGlobal Cancer Centerとして設立され本年1月に開院した。地上11階地下8階からなる病院は単一ビルとしてはアジア最大の医療施設であり、652床の入院病床を有し1日2200人以上の外来患者を治療している。SMCのmain buildingに隣接して建設されているため、あらゆる疾患に対応できる総合病院型癌センターといえる。韓国で発症率の高い胃癌、肺癌、肝臓癌、大腸癌、乳癌、婦人科癌の主要6大癌に対する6チームの他に小児癌など10個の特異領域で治療チームが構成されており、腫瘍内科、放射線腫瘍科、外科など多種の診療科が同じ部屋で診療を行うCollaborate Treatment Systemによる集学的治療が実践されている。病棟のそれぞれのフロアーには癌化学療法専門看護師と薬剤師が配属されていて、チーム医療を行うために必要なインフラの整備も充実していた。放射線治療部門は画像誘導放射線治療や強度変調放射線治療など高精度外部放射線治療が可能な6台の直線加速器と2台のCTシミュレータ、1台の遠隔操作式アフターローディングシステムを有し、さらに2台の直線加速器と陽子線治療装置の導入が決まっている。スタッフは放射線腫瘍医16名、放射線治療専門技師33名、医学物理士4名、エンジニア4名がいる。放射線腫瘍医は放射線治療に関する最新のevidenceに基づいた治療戦略を立案することがその全ての仕事であり、入院患者の診療は腫瘍内科医、放射線治療計画は治療計画担当放射線技師が行っている。米国の先進施設と同様に業務はそのspecialtyに応じて完全に分業化されているのである。病院玄関の正面に大きな親指の肖像が置かれているが、韓国ではこの親指はNo 1.であることを意味する。院内のいたるところで掲示されているアジアNo 1.をアピールする垂れ幕も、2010年までにアジアを代表する医療施設へと発展を遂げるため職員全員が同じ目標に向かって努力していることを我々に強く印象付けた。新しく開設された施設であるため職員の平均年齢も若く、全ての職員に自分達が高いレベルの医療を実現しなければならないという意識と奉仕の精神が浸透している様に感じた。

親指の肖像

No. 1を意味する親指の肖像が病院正面玄関に設置されている

研修内容

第1日目

第1日目の放射線腫瘍部門での研修は早朝からはじまるNew Patients Conferenceへの参加で始まった。二つのグループに分かれて、放射線治療施行が決定した新規患者の病歴を紹介し、治療指針の妥当性、計画した外部放射線治療の問題点を討議するものである。放射線腫瘍医、放射線治療計画担当技師、クリニカルフェロー、レジデントの25名が参加し、各学年2名で計8名いる放射線腫瘍医のレジデントがそれぞれの担当症例を提示していた。二つあるスクリーンの一方に病院情報システムから診療録や画像を提示し、他方に3次元放射線治療計画装置で立案した外部放射線治療計画の内容を提示する。病歴や画像の説明は詳細にわたり、病期診断で必要なCT・MRI・PET/CT・RI画像や2次元線量分布・Dose-volume histogramをすべてチェックし全体の治療戦略や線量処方に関して最新のevidenceに基づいた適切な治療計画であることに関して、スタッフ間での合意を得るまで討議がなされていた。

1症例に20分以上の時間を費やすこともある詳細な検討であり、レジデント教育の場でもあった。カンファレンス後は、癌センター入院病室、外来化学療法室、インフォメーションセンター、放射線治療部の順で施設見学を行った。病院側のご配慮により施設説明担当のスタッフと韓国語を英語に通訳するスタッフの2名が我々を案内してくださり、実際の臨床現場の隅々まで見学することが許された。午後からは放射線腫瘍医教育の責任者であるDr. Won Parkにより韓国におけるレジデント教育システムに関する説明を受けた。

その後放射線部技師長で韓国放射線技術学会の前会長も務められたYoung Hwan Park氏から韓国における診療放射線技師養成システムに関する講義を受け初日を終了した。

第2日目

第2日目は現在のchairmanであるDr. Young Chan Ahnと韓国・日本・米国における放射線治療の現況や問題点について討議した。Ahn先生は米国での臨床・研究のご経験が豊富であり日本の施設との交流も深くそれぞれの国における放射線治療の現状や問題点に関して有意義な討議を行うことができた。その後はクリニカルフェローとして勤務している放射線腫瘍医に実際の症例を用いながら3次元外部放射線治療計画の実際を提示してもらった。症例に関してはこちらから乳癌、頭頚部癌、肺癌、前立腺癌、子宮頸癌を希望し、それぞれの外部放射線治療計画に関し日米の違いを含めて討議した。午後は医学物理士のSang Gyu Ju氏による強度変調放射線治療におけるquality assuranceの全過程のデモンストレーションを拝見した。

そして最後に医学物理士育成に関する氏の意見を伺い、教育方法に関して討議する時間を持った。同日の夜は放射線腫瘍部のスタッフがSCCCの地下で歓迎会を開催して下さった。その機会には、SCCCのスタッフといかに医療人を育成していくかについて率直な意見交換をすることができた。

第3日目

第3日目は朝のカンファレンス参加後、診療放射線技師が担当しているIMRT以外のquality assuranceの実際を見学した。その後、前chairmanであり韓国放射線腫瘍学会の元会長でもあるDr. Seung Jae Huhにより、東アジアにおける放射線治療の現況に関してご講演いただき、日本・韓国における放射線腫瘍医や診療放射線技師・医学物理士の育成に関する問題点について討議する機会が与えられた。

午後は病院の小会議室をお借りすることができたので参加者6名で本研修により得られた成果、今後の診療や教育に活かすべき内容について話し合った。

放射線腫瘍部教授Seung Jae Huh先生との討議

放射線腫瘍部教授Seung Jae Huh先生との討議

研修で得られた成果、これからの診療に活かすこと

Daily, weekly, monthlyのquality assuranceなど実際の診療上で参考となり手技向上に役立つ研修であったが、習得した技術的な内容に関する記載は割愛して、今後日本で医学物理士を育成していく方法や参考とすべき診療システムについて討議した内容を記載する。

SCCCは韓国でも最高レベルの施設である。そして、全てのinfrastructureを新たに構築できたという点であらゆるシステムがうまく連携できる機能的な環境が整備されている。特に世界最大規模の医用画像保存電送システムなどマルチメディア環境は優れており、全ての職員の間で患者情報がしっかりと共有できるものである。こういった環境で実践されている多職種間の連携、多診療科間の連携による集学的治療は米国の先進施設でみるものに引けを取らないものであった。個々の職員の中には、2010年までにアジアNo 1.の施設になろうという高いモティベーションが浸透しており、重要なのは患者主体の医療であるという意識が徹底されている。病院のバイタリティと、自らが働きやすい環境を整えていこうとする強い姿勢を感じた。しかし、これらの素晴らしい設備や高い職員の意識は、事業をバックアップする企業からの潤沢な投資に支えられるところが大きいと考える。限られた資金で運用している日本の公立病院で同様の事業展開を行うことは不可能であろう。またBig4と称される先進施設もそれぞれの施設が独立して自らの施設を発展させようとしているものであって、韓国の病院全体のレベル向上をしていこうというものではない。日本が国をあげて推し進めようとしている医療の均てん化とはその志向が異なる。医学物理士育成の取り組みには参考になることが多くあったが、配備できる装置に限りがある点から、個々の施設でSCCCと同じレベルの教育を提供することはできない。中四国のコンソーシアム内の複数の施設が連携することで、また地域の癌センターや粒子線治療センターでの研修協力を依頼することにより、中四国地域全体で若い医療人を育てていくことが必要であるという認識を参加者で共有した。

診療において今後我々が最も参考にすべき点は、チーム医療を行いやすい環境の整備である。臓器・病態ごとに設けられた診療スペースで、その疾患に対応すべき全ての診療科の医師・多職種の医療人が同時にそしてスムーズに診療を行うために、必要な機器やカンファレンス室を整備していくことが必要である。放射線治療部門で行われているチーム医療において参考にすべき点として、放射線治療技術者間の住み分けを適切に行うことがあげられる。診療放射線技師は技師、医学物理士は物理士としてそれぞれの役割分担を明確にしていた。そして最も重要視しているのは分業しながらも同じ放射線治療部門の技術者として調和を保ちながら協力して一つの治療を作り上げていくという意識であった。これは診療を行う上で合理的と考えられる米国のシステムをとりいれたものであるが、米国と違ってSCCCでは診療放射線技師が医学物理士の認定を受けることにも積極的であり、同じ医学物理士でも彼らが有するバックグラウンドによって臨床分野と研究分野にその活躍の場を分けていこうとする考え方には共感できるものがあった。日本でも診療放射線技師が医学物理士の認定を受けるケースが多くなると考えられるが、臨床の現場では少数のグループとならざるを得ない彼らが医学物理士であることのincentiveを有しながら他の技術者と協調できる職場環境を作り上げることが重要であると考える。

頭頚部・胸部領域放射線腫瘍部スタッフとの記念撮影
最終日のNew Patients Conference終了後、
頭頚部・胸部領域放射線腫瘍部スタッフとの記念撮影

終りに

ChairmanのAhn先生は「SCCCは開院したばかりの施設であり設備は非常に充実しているがスタッフは皆若く、これから自分達も成長しまた若い人を育成していかなければならない。そのために最も大事なのはとにかく”practice”である」ということを何度もおっしゃっていたことが印象に残っている。放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士の全てのスタッフが自ら精進し丁寧に診療を行ってそれを見せることが優秀なスタッフの育成になるということである。

最後に、無料でこの研修を引き受けて下さり、事前に要望していた研修内容を完璧に実現して頂き、大変お忙しい時間を割いて親切にそして丁寧に対応して下さったSamsung Comprehensive Cancer Center放射線治療部の皆様に心からお礼を申しあげる。これからも交流を持ちお互い刺激しながら欧米とは違う独自のスタイルで放射線腫瘍部門を発展させていくことを約束し研修を終えた。

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